2014.7.22 yamada

Illustrator版 完全データへの道 vol.5 入稿データの準備

yamadasan.blog_5

 

こんにちは。プリプレス部の山田です。

 

これまで「トンボ・塗り足し」、「仕上り罫」、「アウトライン」に加えて「CMYKとRGB」と、印刷データを作る上での基礎中の基礎。しかし、だからこそ疎かになりがちなものをまとめてみました。

 

特にこれらは一見ちゃんと出来ているように見えて、蓋を開けてみると実は出来ていなかった。といった事もあるので出力側もうっかりスルーしちゃう事があるんです。
まぁ遅くても刷版を出した時点で間違いには気付くので完成された印刷物として世に出回る事は中々ないと思いますが……

 

トンボ、塗り足しは付けるしアウトラインもちゃんととる。でもそれが何のためのなのか知らなかった。と言う方は『デザインの基礎の裏側には綺麗な印刷物を作る上で重要な意味があったのだ!』
と、言う事を理解していただけたら幸いです。

 

では、以上を振り返って次は入稿データの準備にかかりたいと思います。

 

入稿データを作成する前に

皆さんはもう印刷を依頼する印刷所はお決まりでしょうか?
それが決まっていないという方はまだ準備を始めないで下さい。

 

というのも、どの保存形式で入稿するかで必要な作業や確認事項が変わってくるからです。
どの形式のデータが必要か。それをきっちり確認するのも準備の一つです。

 

印刷所によって入稿の仕方はそれぞれ違います。
なので入稿データの準備と言っても何が必要でどれが不要で……というような事は一切書きません。
「このデータで入稿する時はこうしてから保存したら良いよ。」
と、少しアドバイスをするだけです。

 

ここでは
『無駄な余白がないデータの作成』
『特色(スポットカラー)の有無』(+グローバルカラー)
について説明していきます。

 

入稿で失敗しないための参考になればと思います。

 

無駄な余白がないデータを作る

印刷は1枚の紙に1つ刷る。
というわけではなく、表紙の大きさにもよりますがA4のデータであれば2つないし4つ、サイズによってはそれ以上の数をまとめて刷ってしまいます。
(※用紙のサイズについては『「コート90kg」「コート110kg」?これで完璧、印刷用紙の厚さ!』に詳しく載っています。)

 

例えば、
当社では菊4裁判というサイズの紙をよく使用するのですが、これは468mm×318mmあります。
これに対して印刷するデータはA4サイズ(210mm×297mm)の物が一つ。

 

菊4裁判の用紙に対してA4サイズ1つだけ……というのは用紙がもったいないですよね。
こういう場合、A4データを2つ付けて印刷してしまいます。

 

その時、『A4』+『塗り足し』を含めた下図にようなテンプレートを用意してその中にデータをはめ込む形になります。

 

テンプレート_小

 

用意された枠にデータをはめ込んでいくので、入稿されたデータがテンプレートのセンターに入らなければ印刷の中身がズレてしまいます。

 

何も問題がないデータであれば簡単にセンターに配置が出来るのですが、
入稿されたデータのサイズが不適切だったり、無駄な余白がある場合はうまくセンターにはめ込む事ができません。

 

データに無駄な余白が出来ないよう不要なものは取り除いておきましょう。

 

とはいえ、実際Illustratorの画面だけを見ていると『何が余分な余白になるのか。』という事がわかりにくいと思います。
ここで一例としていくつかのパターンを説明していきます。
❏なぜ無駄な余白ができてしまうのか

 

まず知って欲しいのは、
「EPSとPDF保存では書き出される形が違う。」
ということです。

 

IllustratorからPDF保存をする場合はドキュメントサイズで作成され、
EPS保存の場合はドキュメント内に存在する全てのオブジェクトを内包した状態で作成されます。

 

保存_例_小

 

なのでEPS保存の場合は、トンボよりも外側に余分なオブジェクトが含まれていると、そのオブジェクトごとデータを書き出してしまうので、余分なオブジェクト分、データに余白が付いてしまうことになります。

 

保存_例2_小
❏EPS保存の場合
ケース1 余分なオブジェクトが含まている。

 

先に説明したとおり、余分なオブジェクトがトンボ外にあると、それらを含んで書き出してしまうので余分な余白ができます。

 

そして「アウトライン」でも書いた孤立点ですが、この点がトンボより外に残っていても余分な余白が出来てしまいます。
孤立点はテキストだけでなく、ペンツールなどの消し忘れでポイントが残ってしまっている事もあります。

 

この孤立点、プレビュー画面で見えないのがネックです。
フォント同様「選択」→「オブジェクト」→「余分なポイント」で取り除けますし、表示をアウトライン化(command + y ※再び表示を戻すときもcommand + y)すると、孤立点が小さな×印になって発見できます。
ケース2 白のオブジェクトがトンボよりも大幅に飛び出している。

 

例1_小

 

上のデータですが、プレビュー上ではトンボの外に余分なデータはなく、一見完璧なデータになります。
しかし、このデータをそのままEPS保存しPDFで書きだすと、下図のように余白が広がってしまいます。

 

マスク前1

 

なぜこんなにも余白が出来てしまうのか。
その原因はプレビューをアウトライン(command + y)に変えてみるとわかります。

 

マスク前1ol

 

トンボよりも外にいくつかのパスが伸びています。
右上と左下部分の白のラインがトンボの外に飛び出しているのがわかります。
プレビューでは見えなかったこのラインが余分な余白を作っていた犯人です。

 

デザインに用いている柄がトンボ外に出てしまう場合はマスクを使って不必要な部分を取り除きましょう。

 

マスクは不必要なオブジェクトを囲い、塗り足しの際でガットするようにして作ります。
今回の場合は白のラインが全体的にはみ出してしまっているので、バックの水色のオブジェクトと同じ大きさの空ボックス(塗り・線なし)を白のラインの上に作成します。
そして白のライン全てと、先ほど作った空ボックスを選択し「オブジェクト」→「クリッピングマスク」→「作成」(command + 7)でマスクを作成。
すると、トンボの外にはみ出していたラインが消え、トンボ内にデザインが収まりました。
(※ラインが消えるのはプレビュー画面だけなのでアウトライン画面では存在します。)

 

例1-2_小

 

checkマスクを作成する時に使用するパスは必ず塗りなし・線なしの設定にしておきましょう。
マスクを作成した後に線のカラーを付けるのもNGです。
Illustratorのバグの一つで、印刷データを書き出す時、不具合が起きる可能性があります。
どうしてもクリッピングマスクの縁に線を付けたい場合は、マスクで使用したパスの上に、新しくパスを作成し、そのパスに色を付けるようすると、バグの回避が出来ます。

 

オブジェクトはデータ外に飛び出さないように作成するか、どうしてもはみ出してしまう場合はマスクでカットシてしまいましょう。
※稀にですが、画像やオブジェクトをカットした時のマスクのパスがトンボより外に飛び出している場合もあります。
折角不要なオブジェクトをカットしたのに、それでは本末転倒ですよね。不必要な部分にまでパスを広げないよう注意しましょう。

 
 
ケース3 ぼかしやシャドウのぼけ幅が飛び出している。

 

このケースが一番わかりづらいかと思います。
データやゴミが残っていたり、パスが飛び出していたり……というのはプレビューからアウトラインに変えることで目に見えるものなので比較的気づきやすいです。
ですが、ぼかしやシャドウの場合は、一見トンボ内に収まっているように見えるのでつい見逃しがちになってしまいます。

 

下図も、塗り足しからドロップシャドウがはみ出しているものの、トンボ外には出ていません。
が、これをEPS保存した後、PDFに書き出すと微妙にですが右側に余白が出来てしまっています。

 

例2_小

 

オブジェクトは飛び出ていないのになぜこんな風に余白が出来てしまうのか。
それは「ウィンドウ」→「分割・統合プレビュー」で確認することが出来ます。

 

「分割・統合プレビュー」を開いて更新ボタンを押すと、透明効果が使われている部分が赤く表示されます。
すると、ドロップシャドウがないはずのトンボの外にまで赤い部分が表示されています。
『オブジェクトはないけれどもメには見えないボケ足がトンボ外にまで伸びている』ということがわかります。

 

分割プレビュー1

 

もうおわかりだとおもいますが、この透明が影響している部分まで含んだ状態で保存されるのでPDFに書きだした時に余分な余白が出来てしまうことになります。
対処としては先ほどと同じようにマスクを掛けてあげる事でボケ足を切り落とす事が出来ます。

 

例2-2_小

 

EPS保存をする時の注意点はとにかく『トンボの外に何も配置しないこと。』です。
トンボより外に商品名や色パッチなどを付けている人もいますが、これも印刷からしたら不必要なものかもしれません。

 

「情報を残した状態で入稿したい。」というのであれば、トンボ内にうまく収めてしまうか、それらの情報を囲む形で仕上りサイズよりも一回り大きいオブジェクトで囲ってしまう。など工夫をしてからEPS保存をすると良いかと。
ただし、その場合にはそれらを含めた上で確実にオブジェクトのセンターにデザインが来るようにして下さい。
❏PDF保存の場合

 

PDFはどれだけ周りにゴミがあっても、どれだけきっちり仕上がっていても全て『ドキュメントサイズ』で書き出されます。
なので、「周りにゴミや不必要な物がないのに出来上がったデータに余白が出来る!!」
という方はドキュメントサイズを見直してみましょう。

 

PDF保存の場合、『ドキュメントサイズ=仕上りサイズ』という形にしておくと、保存の際、余白のない綺麗なデータになります。
しかし、『ドキュメントサイズが仕上りサイズより大きくて、しかもセンターにデザインが配置されていない。』
という形だと使い物になりません。

 

ドキュメントサイズ=仕上りサイズでデータを作成していると、塗り足しやトンボがPDFを保存した時に切り取られてしまいますが、「ドキュメントサイズ=仕上り」+「塗り足し」でデザインを作成していれば、PDF保存の際に塗り足しとトンボを付ける事が可能です。

 

ドキュメント情報_小

 

※PDF保存の場合は印刷所によって色々仕様が違います。
ここに書いている事はあくまでも一例なので、印刷を依頼する印刷所の手順に従って下さい。

 

特色(スポットカラー)の確認をする

皆さんはスウォッチに特色を登録していますか?
統一したい色をスウォッチに登録しておくととても便利ですよね。

 

印刷に実際特色を使用するならばそのままのデータで問題無いですが、印刷に特色を使用しないのに特色が使われたデータのまま入稿してしまうと、印刷内容と入稿データに齟齬が生まれ、きちんと印刷できないかもしれません。

 

特色を印刷する予定がないのにデータに特色が含まれていると、4色に自動的に変換される時に、使用するアプリケーションや出力の過程でそれらに登録されている特色のカラーに変わってしまい、Illustratorで作成した特色と色が変わってしまうなど不具合が起こる可能性があります。
また、CMYKの4色だけ印刷という事で、特色を含まず印刷して、特色が使われていた部分は白く抜けてしまうという事も。

 

印刷所によって使用は様々ですが、特色を使用しないデータならデータから特色をなくしてしまうのが一番安全です。

 

特色を作成すると、スウォッチのカラーパレットの右下に三角に丸の入ったマークが表示されます。
それらを選んでダブルクリックでスウォッチオプションを表示させ、カラータイプを『特色』から『プロセスカラー(CMYKの4色の事)』に変更しましょう。

 

カラータイプが選択できない時は、カラーモードを『スウォッチ』から『CMYK』に変更するとカラータイプが選択できるようになります。
(※特色が大量にあってどれを使用しているのかわからない。という場合はスウォッチパレットのメニューから『未使用項目を選択』を選び、使用していない不必要なカラーを抽出し削除する事ができます。)

 

カラーパレット_小

 

右下の三角の中の丸が消えると特色が解除されたという事です。
右下に参画は残ったままになっていますが、これはグローバルカラーと言ってとても便利な機能なんです。
❏グローバルカラーとは

 

普通のカラーの色を変えたい時、変えたい箇所全てを選択した状態で色を変更しないといけませにょね。
しかし、グローバルカラーを使用すると、スウォッチオプションのカラーを変更するだけで、そのグローバルカラーを使用する部分に変更が反映されます。

 

特色にはこのグローバルカラーが始めから適用されています。
なので、特色からプロセスカラーに戻しただけだと、特色に付随していたグローバルカラーの設定がそのままになっているので、プロセスカラーに変えた後でも特色を使用した時の様な色の変更が出来るようになります。

 

スウォッチオプション_小

 

色を統一させるために特色を使用していた。
という人は、特色を作成するのではなく、このグローバルにチェックを入れましょう。
グローバルカラーで色を管理・統一させる事が出来ます。
そうすれば、不要な特色のないデータが出来、印刷にも影響が出ませんよね。

 

入稿データの最終確認

入稿データを作るポイントはなんと言っても余分なパーツ・データを作らない。という事です。

 

今回はIllustratorの中身のみに注目していますが、他のアプリケーションで作成した時も、書類や画像などが複数ある時、印刷に不必要なものも合わせて入稿するなんて事しませんよね。
それと同じで、データの中身も不必要なものを除いた状態で入稿しましょう。

 

データの作成が終わった後は、

 

・RGBモードになっていないか。
・リンクにRGBは使われていないか。
・特色は使っているか。
・余分なデータがリンク外にないか。
・仕上り罫は含まれているか。また、それが印刷に必要か。
・アウトラインはとられているか。

 

それらを確認した上で入稿データを作成するようにしましょう。
そうすれば、見た目だけでなく、印刷的にも完成度の高いデータになります。

 

『完全データの作成』についての基礎はこれくらいです。
あくまでも基本中の基本なんですが、印刷に携わらないと見えてこない事や、わかりにくい事ってありますよね。
それらを意識的にカバーする事によってより完璧なデータが仕上がってきます。
すると、印刷側が嬉しいのはもちろんですが、デザインの製作者側も後々の手直しや再入稿などといった手間が省けていいですよね。

 

スムーズな入稿、印刷が出来るように『完全データ』を目指してデータを作成しましょう!

 

次回からは基礎を抜けだして、もう少しデータ作成の突っ込んだ部分を説明していきたいと思います。
中級〜上級編といったところでしょうか。

 

次回のテーマは「透明効果 part.1ぼかし」です→

 

←前回「RBGとCMYK」