2014.11.17 yamada

Illustrator版 完全データへの道 vol.7 オーバープリント

yamadasan.blog_7

 

こんにちは。プリプレス部の山田です。

 

前回、透明効果vol.1としてぼかしの説明をしましたが、透明効果vol.2に行く前に少しオーバープリントの説明をしたいと思います。

 

デザイナーさんの視点ではどの程度重要視されているかはわかりませんが、
印刷側からすればオーバープリントのチェック一つでデータが大きく変わってしまうのでとても重要なものなのです。

 

オーバープリント(ノセ)とは

「ウィンドウ」の「属性」を開くことで「塗りにオーバープリント」と「線にオーバープリント」を設定できます。

 

なにも設定していない状態だと、カラー同士が重なっている時、背面に配置されているカラーはその全面に配置されているオブジェクトの形に抜き取られて印刷されます。
この状態を抜き(ヌキ)と言います。
しかし、全面にくるオブジェクトにオーバープリントのチェックを入れた状態でカラー同士が重なっている場合、オブジェクトの形で抜かれる事はなく、背面のカラーを重ねた状態で印刷されます。

 

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スミノセ

K=100%で作成されたスミ文字を使用していると、下地部分のカラーはスミ文字の形に抜かれ、版ズレが起きると文字と下地との間に紙地が出てきてしまいます。

 

そこで、黒にオーバープリントチェックを入れることでバックの抜きをなくし、文字がズレでも紙地が出てこないようにします。
これをスミノセと言います。

 

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オーバープリントの危険性

使い方によっては非常に便利な機能ですが、オーバープリントは普通のプレビュー画面では反映されません。
なので知らないうちにカラーのオブジェクトにオーバープリントのチェックが入ってしまっていると、背景の色が重なって意図していない色に変わってしまう危険性があります。

 

更に、白のオブジェクトにオーバープリントが適用されていると、背景と馴染んで消えてしまった……という事も。
大きく、目立つものならともかく、小さいものはつい見逃してしまいがちです。

 

オーバープリントの有無を調べたい時は、オーバープリントプレビュー(shift + option + command + y)に切り替え、色に変化はないか調べましょう。
(再び元の表示に戻す時はshift+option+command+yで戻るか、command+yでアウトライン→プレビューを切り替える)
CS4以降は分版プレビュー(ウィンドウ→分版プレビュー)でも確認する事が出来ます。

 

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白のオブジェクトにオーバープリントを適用させようとしても、メッセージボックスが出てくるので一度止まる事が出来るのですが、すでにオーバープリントチェックの付いているカラーオブジェクトを白に変えた時、このメッセージは出てこないので知らず知らずの内に白にオーバープリントが付いている事もあります。

 

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▲白のオブジェクトにオーバープリントを掛けるとメッセージボックスが出てくるのに……

 

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▲元々オーバープリントの掛かっているオブジェクトを白に変えると、なんのアラートもなくオーバープリントを維持したままカラーだけ変わってしまう。

 

ちなみに……
IllustratorCCではこの白に掛かったオーバープリントを自動的に破棄してくれる設定があります。
しかし、あくまでも出力時に破棄するだけなので、オーバープリントプレビューではオーバープリントにチェックが入った状態で見えてしまいます。

 

今までは「Illustrator上であったオブジェクトが出力時に消えている。」というエラーでしたが、次からは「Illustrator上ではなかったはずのオブジェクトが現れた。」なんてエラーも起こりそうですね。

 

どちらにしても結局はエラーの元になりそうなので『白のオブジェクトにはオーバープリントチェックは付けない』と徹底するのが一番良い方法な気がします。

 

入稿前の確認

オーバープリントは入稿を決めた印刷所の注意書きをしっかり読んでいないと、予期していなかった仕上がりになってしまう可能性があります。

 

入稿データに自動的にK=100%の部分に全てオーバープリント(スミノセ)を入れるところや、CMKのカラーに入っているオーバープリントチェックを外し、K=100%の部分にだけオーバープリントを掛けるところもあります。

 

カラー部分のオーバープリントが外されてしまうのか、維持して出力するのか。
維持されるのであれば、オーバープリントの不備がないか確認するだけですが、外されてしまう場合はかぶせ(トラッピング等)の処理をしていないか確認しましょう。
せっかくのかぶせ処理もオーバープリントのチェックが外されてしまえば意味がありません。
(※かぶせ(トラッピング)とは…
色同士がズレた時、紙地が出ないようにお互いの色を少しだけ重ねる方法。)

 

もちろん、入稿されたデータの内容には一切触れずに出力する所もあります。

 

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印刷所によって使用は様々だと思いますが。『K=100%の部分に自動的にノセが入る』という事だけでいくつか注意する点が発生してきます。

 

K=100%の部分に〜……という事は先に説明したスミノセの処理を行うためのものです。
ですが、K=100%を使用している部分って文字だけではないですよね。

 

スミノセは版ズレが起きてしまった時、背景と文字の間に紙地が見えて文字が読み難くなるのを防ぐには有効ですが、それ以外の部分にスミノセが掛かってしまうと少し厄介な事が起こってしまいます。

 

❏スミベタに注意

 

黒は何を重ねても黒ですが、他の色と同様、背面になるオブジェクトのカラーの影響は受けています。

 

スミの範囲が小さい場合は、バックの色の影響を受けていてもスミの範囲が狭いのでわかりづらいですが、スミの範囲が広い場合、バックの色の影響を受けて色が透けて見え、色の段が出来てしまいます。

 

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バックの影響を受けないようにするには、

 

1.スミ99%など100%と比べ色味はさほど変わらないが100%ではない数値にする。
2.スミ100%の下に白を引く。
3.スミ100%の部分にCMYを数パーセント入れ、リッチブラックにする。
(この時、CMYの色がスミ100%を入れた状態でインクの総量が250%を超えないようにしましょう。重なるインクの濃度が濃過ぎると印刷する時に汚れやすくなったり、インクが剥離する原因になります。)

 

等、スミ100%の部分を工夫することで回避出来ます。

 

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スミの下に柄が透けてほしくない場合は、スミノセの処理が行われても影響が出ないデータを作る必要があります。

 

❏透明効果との併用に注意

 

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上の図は青いバックの上にそれぞれ白い文字と赤い文字が書かれています。2つともオーバープリントのチェックは入っていません。
この状態で作成されたデータを『スミノセあり』の印刷所に入稿します。

 

白と赤だといスミノセがかかるはずはありません。
しかし、このデータを『スミノセあり』の印刷所で印刷すると下図の様な状態で印刷されてしまいます。

 

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白い文字が消え赤の文字の色が変わっていますね。白と赤なのになぜこんな事が起こるのか。
その原因は2つの文字に内包されているカラーにありました。

 

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白と赤の文字を選択してカラーを確認してみると、2つともK100%で出来ている事がわかります。
では、なぜ黒ではなく白と赤に見えているのでしょうか。

 

その答えは透明効果にあります。
元のカラーはK100%なのに、透明効果を使用することによって色調が変化して見えていたのです。

 

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透明効果だけなら印刷するのになんら問題はないのですが、今回の問題はこの透明効果の掛かったオブジェクトがK100%だった事です。

 

どれだけ視覚的な色が変わっていても、内包している情報はK100%なので自動的にスミノセが掛かってしまいます。
画面上の見た目では分かりづらいので色調が変化する透明効果を使用している場合は気をつけましょう。

 

オーバープリントと乗算の違い

オーバープリントと乗算。
この2つは下にあるオブジェクトのカラーをすかす機能として似たような性質をしていますが、オーバープリントと乗算ではそれぞれの処理が全く違う別物になります。

 

まず乗算ですが、これは透明効果の1つです。
イメージとしては今ある色の上に透明なセロファンを重ねている感じです。

 

K60%の上にC60%の乗算を乗せると重なっている部分が単純に足されK60%+C60%になります。
しかしC60%の上にC60%を重ねてもCMYKは100%が上限なので120%にはなりません。では100%になるのかと言えばそうでもなく、C84%になります。

 

計算式としては、

 

計算式

 

になり、C60%の上にC60%の乗算を掛けた場合(1-((100-60)÷100)×((100-60)÷100))×100=84という値が出てくる事になります。
重なる数値が合わせて100%オーバーしているからといって単純に100%にはならないので注意しましょう。

 

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次にオーバープリント。まずこれは乗算と違って透明ではありません。
透明ではないので透明を使用した時に行う透明分割(※次回詳細をアップ予定)を行う必要がありません。

 

そして乗算と違って色の上に色を重ねるだけではないのが特徴です。

 

乗算と同じくK60%の上にC60%を乗せると重なった部分がK60+C60になりますが、C60%の上にC60%を乗せても重なる部分の色は変わりません。

 

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オーバープリントとは重なる色が別のカラーだとノセが適用され下の色が透過されますが、同一のカラーの場合1%でも同じ色が入っていればその色はノセになりません
重ねた色に含まれていない色がだけが活かされ透過されます。

 

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最終確認

オーバープリントの有無は1つ1つのオブジェクトの属性を確認していくか、プレビューとオーバープリントプレビューとの切り替えで確認できますが、他にも確認する方法があります。

 

❏分版プレビューをチェックする(CS4以降)
分版プレビュー(ウィンドウ→分版プレビュー)を使用するには必ずオーバープリントプレビューにする必要があり、更にCMYK(あれば特色)の1版1版を分けて表示する事が出来るので、印刷に近い形で確認する事が出来ます。

 

❏プリントしてみる
プレビューがオーバープリントプレビューになっていてもいなくても、プリントでは基本的にオーバープリントの設定が適用されて出力されます。
画面上のプレビューと、手元のオーバープリントが適用されたプリントとでおかしな部分がないか確認できます。

 

しかし、印刷の設定で「詳細」のオーバープリントの選択が「破棄」になっていたら、例え画面上でオーバープリントが見えていても印刷時にオーバープリントの設定が破棄されてしまいます
印刷のオーバープリントの設定は必ず「保持」にしておきましょう。

 

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❏PDF化してみる
PDFの作成、閲覧が出来る環境の人はPDF化してみましょう。
PDFではオーバープリントが適用された状態で表示されるので、オーバープリントが掛かっているか、不必要な部分に掛かっていないかを確認する事が出来ます。

 

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オーバープリントのチェックを入れた後、新しいオブジェクトを作成するとその設定が残ったままオブジェクトが作成されてしまいます。

 

不必要な部分にオーバープリントが掛かっていて、「オーバープリントのチェックを入れなかったのにどうして?」と思っていた人は設定が残ったまま作業を続けていた可能性があります。
オーバープリントが不要なオブジェクトを作成する時はオーバープリントのチェックを外してから作成しましょう。
※テキストはなぜか設定が残らないので、必要であれば作成後1つずつチェックを入れるしかありません。

 

不要な部分にオーバープリントが掛かっていても「印刷所でオーバープリントを外してくれるから大丈夫なんじゃないの?」と思った方もいるはずです。
確かに、CMYに掛かったオーバープリントを破棄する事は可能ですが、白のオブジェクトをや透明を使用している場合は、オーバープリントの設定が破棄されず、オーバープリントがそのまま活きてきてしまいます

 

印刷所で処理をしてくれるからと言ってデータの確認を怠ると予想外の仕上りになってしまう可能性があります。
入稿する印刷所の注意書き、作成データの確認は念入りに行いましょう。

 

 

次は「透明効果 Vol.2透明分割」です →

 

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